【 過剰な消毒、殺菌の影響 】
冬の寒さも本格的になってきました。今年はインフルエンザの流行はいまのところありませんが、風邪をひきやすい時期であることは認識されていることでしょう。
新型コロナウィルスの出現によって、すっかりマスク着用やアルコール消毒が日常生活でのあたりまえになっています。病院内ではもちろんのこと、スーパーやレストランでも消毒する習慣が身についてるのではないでしょうか。家庭内でも殺菌、消毒に勤しんでいる方もいるかもしれません。
でも、そんな消毒薬のなかに少し気を付けなければならないものがあります。家庭で使用される噴霧式や拭き取り式の消臭・除菌剤です。
これらの製品の多くに非生体向けの消毒剤としてベンザルコニウム塩化物塩といった第4級アンモニウム塩が使われているのですが、この物質には毒性があり、揮発して室内に充満します。口から入った場合には嘔吐や肝臓での解毒作用がある程度期待されますが、呼吸によって肺に入った際には直接血液へ入り込み生体に悪影響を及ぼします。過去の動物実験(マウスの研究)では第4級アンモニウム塩による健康障害として死亡率の増加、萎縮性肝機能障害、免疫系への影響、先天性異常の発生が認められています。
また、米ハーバード大学とフランス国立衛生医学研究所の30年間にわたる調査の結果、第4級アンモニウム塩を含む除菌剤、殺菌剤、漂白剤などがCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の発症要因だと2017年に報告されました。COPDはこれまで肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきた病気の総称で、肺が持続的な炎症を起こし呼吸機能の低下をきたします。咳や痰、運動時の息切れなどの症状がみられ、進行すると酸素療法が必要になります。40歳以上の8.6%、約530万人の患者が存在すると推定され全体では死亡原因の9位を占めています。
これまでタバコの煙などに含まれる有害物質を長期に吸入することが主な原因とされてきましたが、この報告では消毒剤製品や漂白剤を週に1回使用した人はCOPDを発症する可能性が32%高くなるとのことです。コマーシャルなどのでも気軽にシュッシュッとスプレーしている場面がみられますが、使用する際には十分な換気を行い吸入しないよう気を付けることが必要です。雑菌やウィルスはこれまでも長い期間ヒトと共存してきています。過剰に忌避し排除する必要はないのかもしれません。
最後に、「医学の父」といわれている古代ギリシャの医師ヒポクラテスの言葉をご紹介します。
“ 人は自然から遠ざかるほど病気に近づく ”
副院長 内科医師 吉田賢一
- POSTED at 2022年02月11日 (金)